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最高裁判所第二小法廷 昭和56年(オ)856号 判決 1985年4月05日

上告人

甲野太郎

右訴訟代理人

浅野憲一

石田省三郎

被上告人

古河電気工業株式会社

右代表者

舟橋正夫

被上告人

原子燃料工業株式会社

右代表者

宮沢鉄蔵

右両名訴訟代理人

田平宏

原慎一

古沢昭二

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人浅野憲一、同石田省三郎の上告理由第二点について

労働者が使用者(出向元)との間の雇用契約に基づく従業員たる身分を保有しながら第三者(出向先)の指揮監督の下に労務を提供するという形態の出向(いわゆる在籍出向)が命じられた場合において、その後出向元が、出向先の同意を得た上、右出向関係を解消して労働者に対し復帰を命ずるについては、特段の事由のない限り、当該労働者の同意を得る必要はないものと解すべきである。けだし、右の場合における復帰命令は、指揮監督の主体を出向先から出向元へ変更するものではあるが、労働者が出向元の指揮監督の下に労務を提供するということは、もともと出向元との当初の雇用契約において合意されていた事柄であつて、在籍出向においては、出向元へ復帰させないことを予定して出向が命じられ、労働者がこれに同意した結果、将来労働者が再び出向元の指揮監督の下に労務を提供することはない旨の合意が成立したものとみられるなどの特段の事由がない限り、労働者が出向元の指揮監督の下に労務を提供するという当初の雇用契約における合意自体には何らの変容を及ぼさず、右合意の存在を前提とした上で、一時的に出向先の指揮監督の下に労務を提供する関係となつていたにすぎないものというべきであるからである。

これを本件についてみるのに、原審が確定した事実は、次のとおりである。

1  被上告人古河電気工業株式会社(以下「被上告人古河電工」という。)と住友電気工業株式会社(以下「住友電工」という。)は、両社の核燃料部門を新設の会社に引き継いで営業させる旨の合意に基づき、昭和四七年七月八日被上告人原子燃料工業株式会社(以下「被上告人原燃工業」という。)を設立した。被上告人原燃工業としては、当座の操業に支障を生じないようにするため、被上告人古河電工及び住友電工の両社から拠出された人的・物的施設をそのまま引き継ぐこととするが、これを有機的に統合して合理化し、かつ、両社からの出向者がほぼ同数になるように人員を調整することを予定していた。被上告人古河電工は、同年九月一日その原子力部門の物的施設を被上告人原燃工業に譲渡あるいは賃貸すると共に、上告人ら同部門の従業員一五一名に対し、自社との雇用契約関係は存続させたまま休職の形で被上告人原燃工業に派遣を命じ、以後右従業員は全員異議なく被上告人原燃工業の業務に従事して来た。ちなみに、住友電工から被上告人原燃工業への出向者は一〇五名であつた。

2  被上告人原燃工業としては、発足後間もない時期においては、前記の人員調整だけでなく、適材適所等の観点からの適切な人員配置をする必要があり、その結果一部の出向者をそれぞれの出向元に復帰させるという事態の生じ得ることも予想されたため、被上告人古河電工からの出向者が被上告人原燃工業の従業員として定着することとなるのか、出向元に復帰することとなるのかは、極めて流動的な状態にあつた。被上告人古河電工は、被上告人原燃工業が企業としての統一性、独立性を備え、独立の企業としての基盤を持つに至るまでの間は、出向者を被上告人原燃工業における人員調整、適切な人員配置等の人事上の都合により自社に復帰させることがあり得ることを予定して従業員に出向を命じ、出向を命じられた者もそのことを予定して出向に同意した。

3  上告人に対する本件復帰命令は昭和四七年一二月一八日にされたものであるが、当時、被上告人原燃工業は、設立後なお半年に満たず、独立の企業としての基盤を有するに至つていない状態にあつたものである。

以上の原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。

右の事実関係によれば、上告人の被上告人原燃工業への出向は、被上告人古河電工又は被上告人原燃工業の業務上の都合により被上告人古河電工へ復帰を命ずることがあることを予定して行われたものであつて、上告人が被上告人古河電工の指揮監督の下において労務を提供するという当初の雇用契約における合意がその後変容を受けるに至つたとみるべき特段の事情の認められない本件においては、被上告人古河電工は上告人に対し復帰を命ずる際に改めて上告人の同意を得る必要はないものというべきである。したがつて、これと同旨の原審の判断は正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。

論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原審の認定にそわない事実若しくは独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

同第一点、第三点及び第四点について

所論の点に関する原審の認定判断及び措置は、原判決挙示の証拠関係及び本件記録に現われた本件訴訟の経過に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、いずれも採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(牧 圭次 木下忠良 鹽野宜慶 大橋 進 島谷六郎)

上告代理人浅野憲一、同石田省三郎の上告理由

第一点 <省略>

第二点 原判決は本件復帰命令の効力につき、これを有効と解した。しかし右は民法六二五条一項及び復帰命令に関する法令の解釈適用を誤つた法令違背、ひいては審理不尽、理由不備の違法がありこれが判決に影響を及ぼすこと明らかであるので破棄を免れない。

一、在籍出向であるとの点についての法令違背等

1 原判決は第一審判決を引用し、

(一) 本件における古河電工から原燃工業への出向は、「一般に在籍出向と呼ばれる範ちゆうに属する。」

(二) かかる出向の中には、

「使用者が労働者に対し、出向後、出向先又は出向先の業務上の都合により再び出向元において労務供給することがありうることを予定しながら出向を命じ労働者がこれに同意するという形態」と、

「使用者が労働者に対し、出向後は恒久的に出向先において労務給付することを予定して出向を命じ、労働者がこれに同意した場合」がある。

(三) 前項の場合、使用者は、「復帰を相当とする事由の存する限り」、随時、労働者に対して、右命令を発することができるが、の場合には、「当該労働者の個別的同意」を要する。

(四) 右、いずれに該当するかは、明示の合意によつて判断されるが、これがない場合は「合理的意思解釈」によつてこれを確定すべきである。と述べる。そして本件の場合は前記に該当するので合理性を肯認しうるので原告の同意を要せずに有効になしうるとする。

しかしながら、出向については、各企業においてその形態は千差万別であることは公知の事実であるところ、本件出向は、一般の在籍出向といわれるものとは事例を異にする特殊なものであつて、以下述べるとおり、本件復帰命令には労働者の個別的同意を要する。

2 本件出向の特殊性

(一) 乙第五五号証ないし五七号証によれば次のことが明らかである。

被上告人古河電工と訴外住友電工は、その核燃料事業部門の営業を譲渡することにより、被上告人原燃工業を設立すること、さらに営業譲渡実行日以降は両社共核燃料事業は行わないことを約し、昭和四七年七月二〇日には古河と原燃との間に営業譲渡契約が締結され、核燃料事業部門の営業を構成している資産、権利、法律上事実上の関係及び債務等が同年九月一日をもつて原燃料に譲渡することが決定され、同日履行された。この中には当然従業員に関する債権債務も含まれ、古河の核燃料事業部門に所属する従業員は当然原燃に引き継がれることとなつた。

乙第五五号証では新会社の従業員は古河、住友両社がほぼ同数となるように配慮する旨定められたが、上告人ら作業者や女子は右同数配慮の対象から除かれていた(なお、原審における証人出牛も上告人が右にいう作業者であることを認めている。)。

右証拠は第二審たる原審において上告人の提出命令申立を契機として初めて提出されたものであつてその意義は極めて重要であつて、本件出向及び復帰命令の性質ひいては本件復帰命令の効力にかかわるものである。にも拘らず、原審は、右書証が明らかになつたのに、これと異る事実認定を行つている第一審判決をそのまま引用しているものであり、右書証を排斥する合理的根拠も示していないのであつて、明らかに理由不備、ないしは経験則違背である。

そもそも営業譲渡とは、特定の営業の目的に供される総括的な財産的組織体、すなわち企業組織体を一体として契約により移転することである。(我妻編集代表「新版新法律学辞典」有斐閣)。従つて、譲渡人は譲受人に対し得意先との契約、労働者との労働契約を含め、営業を構成する法律上、事実上の関係及び債務を移転すべき債務を負うことになる。

本件の場合も右に定義した営業譲渡に他ならず、古河と住友の核燃料事業部門の企業組織体が一体として原燃に移転されたものである。

被上告人らは右の事実を隠ぺいし、第一審準備書面(四)、一、(二)(1)で「被告原燃工業への設備の一切の譲渡を把え、法律上の営業譲渡であるとし、従つて、原告らの出向も労働契約上の地位の譲渡に該当するので、原告の同意もその点についてなしたものであるとしている。しかしながら右主張は全く事実を歪曲した牽強付会の理論と言わざるを得ない。」とか、同一、(二)(Ⅱ)(2)で「右の如き在籍出向の内容は、被告原燃工業と被告古河電工との間の施設の一部譲渡の法的性質によつて、左右されるものではない。」とか述べていたが、乙第五五号証ないし五七号証によつて本件核燃料事業部門の原燃への移転が、「設備の一部の譲渡」や「施設の一部譲渡」ではないことは明白となつた。

従業員の地位に関しても、古河と原燃の契約が核燃料事業部門の営業譲渡である以上、上告人と古河との雇用契約は上告人の同意を条件として原燃に移転されるのは右営業譲渡契約の当然の効果であり、乙第五七号証営業譲渡契約書第6条①項も右の理を記載したものに他ならない。

ここにおいて本件出向の特殊性はより明確になつたと信ずる。原燃は古河、住友両社の核燃料事業部門の文字通り営業譲渡により設立されたものであり、

古河、住友両社には核燃料事業部門が存在しなくなつたばかりか、前述のとおり譲渡日以降は自ら核燃料事業をなし得なくなつたため、労働者にとつては復帰すべき元の職場はもはや存在しなくなつたのである。従つて原判決が「当面は従来の両社の核燃料製造部門の物的、人的施設の全部を移管しなければ、とりあえずの繰(ママ)業に差支えるため、右のような措置がとられた」と判示は全くの誤りであり、営業譲渡の観点からみれば島村証言の「従業員は原燃に骨を埋める」という言葉は当然なのである。

すなわち、古河電工が物的、人的施設の全部を移管したのは、本件新会社の設立が、古河電工、住友電工両社の核燃料部門を統合して、営業譲渡によつてなされた当然の結果であり、そもそも両社には、核燃料部門の事業を残置せしめる意図はなかつたのである。従つて、両社の核燃料部門の物的、人的施設の操業そのものが新会社の事業内容となつたのであり、とりあえずの操業の支障という観念はそもそも有り得ないのである。つまり操業に差支えるため物的、人的施設の全部を移管したのではなく、両社の核燃料部門の営業(商法上の意味)を新会社に譲渡することが、新会社設立の基本であつたからなのである。原判決は、これを逆転させるという誤りを犯しているのであり、経験則違背である。

(二) 本件新会社の設立に関して、従業員は全て古河電工、住友電工両社からあてられ、新たに募集するという方法はとられなかつた。

(三) 本件職場である核燃料部門は、通常の機械操作と違い、技術的にも作業内容としても特別な知識、技能を要し、極めて特殊な部門であることは公知の事実である。

(四) 以上のとおり本件出向は極めて特殊な性格を有している。

3 ところが原判決は単純に本件出向は「一般に在籍出向と呼ばれる範ちゆうに属するものであることが明らかである」と解した。

しかしながら右は本件出向の特殊性を看過した解釈である。

既に述べたとおり、本件出向は、古河電工及び訴外住友電工の核燃料部門の営業譲渡による新会社の設立という、きわめて特異な状況のもとに行われたものである。通常行われている他社への出向は出向元の関連事業が当然残置され、その事業の発展や利益の追求のために行われるのであり、出向元からは一名又は二〜三の社員が、他社の応援又は監督あるいは研修のために赴くというのがほとんどである。これに対して、本件は、事業所そのものが出向したというに等しく、一担出向した後には全く同種の職場は、もはや存在しなくなつているのであり、雇用契約も出向元会社との間に存続するのであつて、通常の区別によれば転籍出向又はこれに準ずるものと言わなければならない。このことは仮に、新会社と古河電工との間に「出向解除の必要が生じたときは事前に双方協議してこれを行う」旨の協定があつたとしても何ら本件出向の性質を左右するものではない。現に、被告古河電工においても、新会社設立時当時から、「大きな流れとしては、従業員は被告原燃に骨を埋める」(島村証言96項)ことを予定していたのである。また、本件出向が仮に形式上、在籍のまま出向という扱いがなされていたとしても、右は、出向前の待遇を低下させないこと、又万一新会社が倒産した場合の身分保障という意味で考察されるべきものであり、出向元会社への形式的籍の有無によつて左右されるものではない。

従つて本件出向のごとく特殊で転籍出向あるいはこれに準ずる性格を有する場合においては、その出向の際には勿論、復帰の場合においても従業員の同意を要するものと解するのが相当である。

民法六二五条一項は「使用者は労務者の承諾あるに非ざれば其権利を第三者に譲渡することを得ず」と定めている。また原判決も認めるように一般に雇用契約の要素の変更は労働者の同意なくしては許されないのである。本件出向がその性質からみて転籍あるいはこれに準ずるものである場合出向先からの復帰も民法六二五条一項の権利の譲渡あるいは雇用契約の要素の変更となることは明白であつて、本件上告人の同意なくされた復帰命令はその効力を有しないのである。

原判決は復帰命令の効力の解釈にあたり本件出向の前記のとおり書証に反する事実を前提にし、あるいはこれを無視してその合理的な根拠も述べていない点で理由不備の違法があるだけでなく、本件出向を在籍出向とした点で経験則違背あるいは復帰命令の効力につき解釈適用を誤つたものであり法令違背の違法があり、しいては審理不尽がある。

二、出向と復帰の相違に関して

1 原判決は本件出向と本件出向元からの復帰とを区別し、前者には同意が必要であるが、後者の場合は必ずしも同様に考えることはできないとする。が右は民法六二五条一項ないし雇用契約の変更に関する法令の解釈適用を誤つたもので、ひいては審理不尽、理由不備の違法がある。

2 原判決は、「出向」と「出向元からの復帰」とで同意の要否について区別するメルクマールを雇用契約の内容あるいは労働条件の変更の有無、程度においているようであるが、雇用契約の内容あるいは労働条件の変更の有無、程度という点に照らして本件を見た場合においても、復帰命令の要件を出向命令の要件より緩やかに解する必要はないばかりかむしろそれは誤りであると言わなければならない。それは次の三つの点から指摘することができる。

第一に、当初の古河と上告人との雇用契約(以下と略す)と原燃と上告人との雇用契約の(以下と略す)相違点と右と復帰後の雇用契約(以下と略す)の相違点について検討するに、古河から原燃への出向(からへの移転)は指揮監督の主体の変動を伴うものの、労務給付の場所、職場自体は変動しないものであつたのに比べ、原燃から古河への復帰(からへの移転)は指揮監督の主体の変動を伴うだけでなく、労務給付の場所さらには職種の変動を伴うものであつて、むしろ「復帰」の場合の方が雇用契約の内容の変化が大きく、

第二に、当初の雇用契約と復帰後の雇用契約とを比較すれば当初の雇用契約の内容()は、上告人が古河の核燃料部門で労務を給付するというものであり、本件復帰命令後の雇用契約は古河の非核燃料事業部門たる中

給付の相手

指揮監督

古 河

古 河

原 燃

原 燃

古 河

古 河

(出向)   (復帰)

第一、→と→の違い

第二、との違い

第三、との違い

央研究所加工室で労務を給付するというもので、本件に関する限り出向元に復帰することが原判決のいうような「当初の労働者と出向元との雇用契約に基づく労務給付自体」とは言えないこと、

第三に、とを比較すれば次のとおりである。本件営業譲渡によつて上告人と原燃の間には雇用契約()が発生し、その雇用契約に基づく労務給付の内容は、原燃に対し同社の指揮・監督の下に核燃料事業部門の職場で労働することであるが、復帰後は古河に対し、同社の指揮・監督の下に非核燃料事業部門の職場で労務給付することになるのであるから、本件復帰命令は右労務給付の相手方、指揮・監督及び労務給付の場所・職種を変更するものであつて雇用契約の内容の変更であること。

職場、職種

中研、核燃料事業部門

第一製造係

中研、核燃料事業部門

第一製造係

加工室、非核燃料科事業部門

以上を表にすると次のとおりとなる。

以上三つの点のどれをとつても、雇用契約の内容の変更という点から見れば、本件出向と本件復帰は原判決のいうように区別することはできないばかりか、むしろ本件においては復帰の方こそ雇用契約の内容又は要素の変更の程度が大きいというべきである。

してみると本件復帰命令も又出向の場合と同様に労働者の同意が必要であると解さなければ不合理であり、又民法第六二五条にも反することになるのである。

3 然るに原判決は「出向元の指揮命令下にその業務に従事することは当初の労働者と出向元との雇用契約に基づく労務給付自体なのであり、出向の場合に第三者の指揮監督下での第三者のための労務給付が当事者間において当初予定されていないのが一般であるのと事情を異にする。」などと本件には全く的はずれな一般論を展開している。たしかに先に述べたような一人又は二〜三人の社員が関連他社へ応援又は監督あるいは研修のために赴くという場合は右判示のようなことがあてはまることもありうる。しかし、本件のような特殊な出向については全くあてはまらないことは既にみてきたとおりであつて、復帰は当初の雇用契約に基づく労務給付と全く異なるのである。

以上のとおり原判決は出向と復帰の区別について全く誤つた解釈を行うものであつて、民法六二五条一項ないし雇用契約の変更についての解釈適用を誤つた法令違背があること明白である。

三、恒久的な出向か否か

原判決は本件出向について、復帰を予定したか、そうではなく恒久的なものであるかにつき、合理的意思解釈によりこれを確定すべきものとしたうえで、いくつかの点を挙げて前者であると判示している。(右意思解釈が誤つていることは別に論ずるのでそれに譲ることとする。)

しかしながら、本件出向は当事者の意思解釈においてもさることながら、その客観的要素を素直にみれば明らかに→「出向後は恒久的に出向先において労務給付することを予定していた」場合に属するものである。

先に述べたとおり、原燃の設立は古河、住友の前記営業譲渡によるもので、上告人ら労働者の出向も右営業譲渡の当然の効果として原燃に雇用関係が移転したことによるものであり、譲渡日以降は古河には元の職場たる核燃料事業部門は存在しない。右の事実は出向命令に際し、当然上告人古河電工において認識していた事実でもある。従つて出向元会社である古河は営業譲渡が決定されている核燃料事業部門の労働者で構成される人的設備について、いかなる将来の時点においても再度譲受けることを予定することはあり得ないのである。出向に際し期限の定めがなかつたことは原判決も認めるところであるが、このことは端的に本件出向の性格を表わすものであるし、又古河の認識をも示している。

以上のように本件出向は全体としてみるならば、「出向後出向先又は出向元の業務上の都合により再び出向元において労務供給することがあり得ることを予定」した出向のカテゴリーに属するものではなく前記「恒久的に出向先において労務給付することを予定」した出向のカテゴリーに属することは明らかである。このことは古河、住友の従業員の数をほぼ同年にするよう配慮する旨の古河、住友間の特約があつたとしても、これに左右されるものではない(しかも上告人ら作業者は同数の対象ではなかつた)。ここで問題にしているのは、出向全体の性格についての議論であるからである。

従つて原判決は右営業譲渡を証する書証により明らかにされた事実関係等をことさら無視したものであつて、経験則に違背し理由不備であることは勿論、本件出向及び復帰命令の解釈適用を誤つた法令違背があることは明白である。

四、以上のとおり、本件復帰命令は上告人の同意なくしては有効たり得ないものと言わざるを得ず、これを有効と解釈した原判決は法令違背ひいては審理不尽、理由不備の違法があり、これが判決に影響を及ぼすこと明らかであつて破棄を免れないものである。

<以下、省略>

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